「もし親が認知症になったら、通帳やお金ってどうなるの?」
介護が必要になると、こうした“お金の管理”に関する不安も出てきます。
実際、認知症の進行によって判断力が低下すると、たとえ実の子どもでも、親の預金を自由に使ったり、契約を結んだりすることが難しくなる場面が出てきます。
「介護費用の支払いができない」「不動産を売って施設入居費用に充てたいのに動かせない」といった問題も、決して他人事ではありません。
今回は、そうした事態に備えるための2つの制度、
「成年後見制度」と「家族信託」
について、FPとケアマネの視点からわかりやすく整理していきます。
◆ 成年後見制度とは? 〜判断力が低下した後の“法的サポート”〜
成年後見制度とは、認知症や知的障害などにより判断能力が不十分になった方に対して、家庭裁判所が後見人を選び、法律的に支援する制度です。
ポイントは、「すでに判断力が低下したあと」でも利用できること。
後見人は、財産管理や契約手続き、施設入所の手続きなどを代行・同意する役割を担います。
ただし、制度にはいくつか注意点もあります。
◎家庭裁判所の監督下に置かれるため、使い道や報告義務が厳格
◎専門職後見人(弁護士や司法書士等)が選ばれることが多く、月々の報酬(2〜6万円程度)がかかる
◎一度開始すると、本人が亡くなるまで原則継続される
「親のことを思って始めたのに、自由にお金を動かせず困った」という声もあるため、導入には慎重な検討が必要です。
◆ 家族信託とは? 〜元気なうちに備える“柔軟なしくみ”〜
一方の「家族信託」は、まだ判断能力があるうちに、“将来の財産管理を家族に託す”制度です。
信頼できる家族を「受託者」として、預金や不動産などの管理・運用・処分を任せることができます。
この制度のメリットは、柔軟性と実用性にあります。
◎家庭裁判所の関与がなく、自由度の高い設計が可能
◎資産の一部だけを対象にでき、必要なときだけ使える
◎管理する家族への報酬が不要なことも多く、コストが抑えられる
ただし、契約内容はすべて自分たちで決める必要があるため、専門家(司法書士・弁護士・行政書士等)とよく相談しておくことが重要です。
◆ どちらを選ぶ?判断のポイント
成年後見制度も家族信託も、“親のお金を守る”という目的は同じですが、始めるタイミングと仕組みが大きく異なります。
成年後見制度
・開始時期:すでに判断能力が低下してから利用できます。
・監督:家庭裁判所の関与があり、財産の使い道や報告義務が厳格に定められています。
・費用:専門職後見人がつくと、月2万円〜6万円程度の報酬が必要になることがあります。
・柔軟性:法律に基づいて運用されるため、基本的に厳格で、自由な使い方は難しい面もあります。
家族信託
・開始時期:ご本人の判断能力がしっかりしているうちに契約を結ぶ必要があります。
・監督:家庭裁判所の関与はなく、運用は比較的自由です。
・費用:契約内容によって費用は変わりますが、設計次第でコストを抑えることができます。
・柔軟性:家族の意向に合わせて自由に設計できるため、実際の生活に即した使い方がしやすいのが特徴です。
「すでに親の判断力が落ちてきている」「身内で揉めないよう法的にしっかり管理したい」
→ 成年後見制度が適していることも。
「まだ元気なうちに、家族で話し合って備えておきたい」
→ 家族信託で柔軟に対応できる可能性もあります。
◆ ケアマネとして見てきた現場のリアル
現場では、「親のお金が動かせずに、必要な介護サービスが使えない」というご家族に何度も出会ってきました。
たとえば、退院して施設に入ることになったのに、入居金がすぐに用意できず入所が遅れたり、不動産売却が進まずに介護費用が枯渇したり……。
介護は、“心”だけでなく“お金”の準備も大切です。
だからこそ、「もしものときどうするか」を、元気なうちから話し合っておくことが、結果的に家族の安心につながります。
▶ 次回予告
次回は、介護が始まるとよく起きる「きょうだい間の役割やお金の不公平感」について。
ご家族で揉めないための工夫や、介護費用の分担にまつわる実例をご紹介します。

