日本には数々の奇祭と呼ばれるものがあります。
仮面をつけて神様に扮した3人が人々を追いかけまわし泥を塗りたくるという沖縄県宮古島の『パーントゥ』。
はたまた天狗に扮した13人が16か所の祠に施したお供え物を参拝者同士で「バカヤロー」などと罵りあいながら奪い合うという茨城県笠間市の『悪態祭り』。最後は「バカヤロー、バカヤロー、おおバカヤロー!」とバカヤロー三唱で終わるという。
どれも一度は見てみたい祭りばかりですが、そこまでの奇祭ではなくても珍しいお祭りは意外と近くにもあるものです。
私が今年に入って見てきた変わった祭りがあります。神奈川県川崎市にある長尾神社で催される『射的祭』です。
射的祭と書いて『マトー祭』と読みます。
2組の稚児とその介添人が神社の境内に敷かれた筵(むしろ)に座り、5メートルほど離れた的に弓矢を射るという少し変わったお祭りです。
毎年1月7日に近い日曜日に開催されています。今年はちょうど日曜日にあたった1/7に晴天の空の下、無事開催されました。
一射!
まず10時頃に神社の拝殿内から「おじいちゃんと孫」という感じの2組4人が階段を降りてきます。子どもは2人とも7歳以下の長男と決まっており4人とも紋付き袴のスタイルで緊張の面持ち。
世話人が4人の横に付きっ切りで式の進行が滞らないようにしているのですが、なにせ初めてのことに緊張も相まって動きがとてもぎこちない様子。
とまぁこれも毎年のことで、見ている人たちも笑顔で見守る感じですね。
ここで法被を着た世話人2人が拝殿内から降りて来て、介添え人2人に「弓」と「矢」を一組ずつ手渡します。
すると境内に設置された直径1.5メートルの円形の「的」に向き直り、おもむろにひざを折り、あらかじめ用意されていた座布団にそれぞれ正座の体勢になります。
境内の真ん中に「稚児、介添え人、介添え人、稚児」という順番に横一列に座っている光景は、初めて見る人にとっては異様に映るはずです。
祭事上は稚児が射手となり弓矢を射る建前になっていますが、実際には介添え人が射るんですね。
まずは一射! 2人の介添え人が順番に弓矢を放ちます。それぞれの矢が的に刺さります。
実はこの「弓」と「矢」は手作りなのです。「弓」は梅の木に麻縄を張って作り、「矢」はアズマネザサで作っているのです。
そのためまっすぐ飛ばすことも難しく、なかなか的に当たらない年もあるんですね。
続けること
一矢を射終わると2組のペアが左右入れ替わります。そしてまた一射! するともう一度左右を入れ替えて座り、もう一度射ます。つまり場所を変えて3回弓を射るんですね。
全て射終わると、拝殿の方に向き直り世話人からの酒盃を頂きます。いわゆる「直会(なおらい)」と言われるものです。
そして行事の最後には参拝者全員に「神饌(しんせん)」と呼ばれる、小松菜のごまよごし、豆腐田楽、なます等が順番に配られて行事終了となります。
この行事は謎が多すぎて愛好家にはなんともたまらない側面をいくつも持っています。
まずなぜ座って矢を射るのか? なぜ梅の木と笹で弓矢を作るのか? なぜ位置を左右入れ替えて3回行うのか? いやそもそもなぜ2組いるのか? いやいやなぜ2人必要なのか?
神社に関する昔の文献は全て焼失しているそう。もはや誰にも謎を解く術はありません。
ただ受け継がれてきた「形」が世代を越えてゆくということ。ただそれだけなんですね。
祭りを続ける。仕事を続ける。趣味を続ける・・・それが何であっても「続ける」ということは尊いことだと改めて感じた一日でした。
謎満載のこの祭り、正真正銘の「奇祭」と言えるんじゃないでしょうか。
ちなみにこの祭りは「五穀豊穣」「村内安全」を祈るもので、「的」の裏面に5つ書かれた「鬼」という字の真ん中の鬼を射抜くと1年間の「豊作」「無病息災」が約束されるそうです。
今年はいい年になりそうです!


