私は過去に数多くのアルバイトをしてきました。
その中で特に変わり種の仕事といえばこれ!というものがあります。
「シロアリ駆除」です。
私が十代の頃に地元企業の求人を発見し興味本位で応募しました。時給もかなり良かったし。
シロアリ駆除というと、なんだかテレビでよく観るスズメバチの巣を駆除するやつをイメージしてゲゲッと思うかもしれませんが大丈夫!
ほとんどの案件は予防作業のため、私の場合はシロアリに出会う機会はほとんどありませんでした。
親方と先輩と3人セットで県内各地を作業車で飛び回るという仕事でした。日帰りもあり、泊りもあり。
さて、どんなことをするかというと、新築の家の基礎(家の土台のコンクリート)周辺に薬剤を散布するのが基本です。
家が全部完成してしまうと床を剥がして薬剤を散布する必要があるため、建築の途中で遅効性の薬剤を散布するわけです。
作業は比較的楽ちんで、防塵・防毒マスクをして上から薬剤を散布します。
ところがすでに建っている家への駆除・予防依頼が入ることもあります。
するとこれ、床下に潜って即効性の薬剤を散布しなければならないのです。
床下の世界
この場合の作業は、まず畳を上げ床板を剥がします。
そこに作業員、つまり私が入って薬剤を散布します。
言うのは簡単ですが、とてつもなく大変な作業なのです。
まず床から地面までが50cm前後しかなく、そこに横たわって少しずつ移動しながら薬剤散布する必要があります。
移動するためには仰向けに寝たまま足を曲げ、かかとで蹴って頭側に移動していくわけです。
なおかつ、顔にはゴーグルと防毒マスクをしているため、マスクの先端が床板にぶつからないように工夫する必要があります。
でも大変なのはこれだけではありません。
実は薬剤が家の中に侵入するのを防ぐために、たった今自分が入った床板を上から他のスタッフがいったん閉じるのです。
つまり真っ暗の中、防毒マスクを床板にぶつけながら作業をするという苦行を強いられるのです。
閉所恐怖症の方は、話を聞くだけで失神するかもしれません。
真っ暗の中、遠くの通気孔からわずかな光が差し込んでいるという光景は、いまでも目に焼き付いています。
慣れる
そんな苦行を半年間続けた頃でしょうか。今でも忘れられない出来事がありました。
なんと、真っ暗な床下に寝転びながら居眠りをしたことがあるのです。
あー疲れた・・・そろそろ昼休憩かな・・・ねむい・・・
・・・・・
「大丈夫かぁ~」という声に、あっ!と気づくと親方が床下に顔だけを出して呼んでいました。
驚愕した私がその時感じたことは、こんな過酷な状況でも人間って寝られるんだ!ということです。
初めの頃はイヤで不安でしょうがなかった床下での作業も、しばらくするとなんとも思わなくなる。
「慣れ」というものはスゴイものだなぁ、と心の底から感心しました。
親方からは「床下で寝るなんてこんな神経の図太いヤツは初めてだー、ガハハハッ」と言われましたが、とんでもない!
私のような枕が変わると寝られない人間がウトウトしたんですから、自分でも衝撃の体験でした。
翼を得る
この体験は私の人生にかなりの影響を与えました。
まず、人間というものは「慣れる」ことが出来るということ。
どんな環境でもあきらめずに続けていくことで、自分の方が少しずつ形を変えていき、環境にフィットするようになっていくということです。
そしてもう一つ。「他人からの印象は変えられる」そして「自分の持っている自分自身の印象も変えられる」ということ。
私のような小心者でもちょっとした出来事で「図太い人間」だと思われたこと。このことが親方や先輩からの私への印象を大きく変え、この日以降の私への対応も大きく変わりました。
同時に大きく変わったのは、私が自分自身に対して持っていた自分への印象でした。
「オレって図太い人間なのか!?」と十代の頃に思えたことは、以降の人生で大きな財産となりました。
人生の転機において「自分は図太い」と勘違いできること。これ即ち背中を押してくれる大きな「翼」を得るにも等しいのです。
もしあなたが自分を変えたいと思っているのなら、他人からの自分の印象を変えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
意図的でも構わない。ちょっと演じても構わない。それでなりたい自分になれるのなら。
親方ありがとう! もらった翼はいまでも私の背中で静かに次の出番を待っていますよ!


