土竜

私が普段よく通る公園の芝生には、冬の時期になるとあちこちに小さな穴が現れます。

白く枯れた芝生の上に、1メートルくらいの間隔で真っ黒な土がポコポコと盛り上がっています。

いちめん真っ白な中に浮かぶまばらな黒い点は、まるで半紙に墨汁を落とした水墨画のよう。

モグラです。たぶん。

たぶん、と言うのは実際にその姿を見たことがないからです。

もしかしたら誰かが趣味で土を掘り起こしている可能性もないことはない。

にしてもざっと見渡しても広大な芝生に100ヶ所以上はあると思われ、穴掘りを生業とするモグラの仕業と思われます。

そう考えると、面白い生き物だなぁと思います。

これだけの穴、一体何匹で掘っているんだろう。

まさか1匹で掘りまくってるとか!?

掘りまくる

モグラの生態について調べてみると、よくわからないところが多いようです。

東日本ではアズマモグラという種類が主流。体長15cm前後の小さな体で前足はシャベル状に大きく進化しています。

基本的に単独で行動していると言われていますが、5、6匹の家族で生活しているという説もあるようです。

食べ物はミミズや昆虫などの動物性で、1日に体重の半分ほどの量を食べます。

食べ続けなければ死んでしまうほどの大食漢で、12時間何も食べないだけで餓死してしまうようです。

そのために1日中トンネルを掘りまくる! 1分間に30cm程度のスピードで掘りまくる!

スゴイ運動量のために食べなきゃならないのか、スゴイ量を食べるために運動しなきゃならないのか。

本人たちも訳が分からずに掘りまくっているというこの感じ、生きるために泳ぐ続けるサメのごとし。

掘っている深さは地上からたった15~30cm程度、思ったより地面のすぐ下を掘っていることに驚きです。

私たちの足元のすぐ下をモグラがジッとしている、と思うとなんか居心地が悪い・・・

生き残る

モグラの生態を調べていると、なにやら普通の動物とはかけ離れた印象を受けます。

なんというか「異星人」的な、「進化動物」的なイメージ。

モグラはもともと地上で生活していたようですが、天敵から逃れるために地下に生活の拠点を移していったようです。

そして長い年月をかけて地下生活特化型に進化したのです。

まず土を掘りやすくするために5本の前足を大きく発達させ、爪を鋭くし、下向きだった手のひらを外側に向けることで掘りやすくなるように進化させました。

また暗闇での生活のために視力を退化させ、鼻の先に「アイマ―器官」という振動と匂いに特化させた器官を発達させました。

これによってエサとなる虫の微細な振動もキャッチし、人間などの足音などは当たり前のように感じ取れます。

そりゃ私たちの前に姿を見せることなどあるはずもない訳です。なるほどなるほど。

そう考えると、一度は競争に負けて移り住んだ過去はあったとしても、その環境に適応すべく進化し生き残って来たことは驚くべきことで、尊敬の念さえ覚えてしまいます。

正直、うらやましいなぁ、と思ってしまうんです。

大きなもの

環境が合わない人、世の中にたくさんいるわけです。

職場であったり、学校であったり、家庭であったり。

人間関係だったり、会社の理念だったり、地理的なことだったり。

まずはその環境に順応できるかどうか、あらゆる手段を駆使して努力してみる。

それでも順応できないとき。順応できないと自分が判断したとき。

その時はモグラのように全く違う環境に飛び込んでみるのアリだと思うんです。

一か八か、大きな決断になることは間違いありません。失敗する可能性もあるでしょう。

「大きなもの」を失うことを恐れて、震えて最初の1歩が出ないかもしれません。

でも、その失うものは本当に自分にとって「大きなもの」なのでしょうか?

もしかしたら・・・錯覚かもしれないんです。

モグラが捨てたお日様の光のように。

土竜塚

いま私はモグラの穴だらけの芝生を見つめ、かれこれ5分ほどじっと立っています。

ついうっかりポコッと出てこないかなー

調べてみるとモグラのトンネルは、生活上何度も行き来する「本道」と1度きりしか使わない「支道」に分かれるそうです。

つまり、目の前に広がる数十個のモグラの穴は、どれかは「本道」であり何度も地上に顔を出すと思われます。

本道か支道かの調べ方は、その対象の穴を土で塞いでみるとわかるらしい。

翌日その穴を見に行って、もしまだ塞がったままであれば「支道」、もしまたモグラ塚が再建されていたら「本道」だそうです。

なるほど。いわゆる「もぐらたたき」だなー

モグラは漢字で「土竜」と書く。モグラの穴を「土竜塚(もぐらづか)」と呼ぶらしい。

その由来はどうあれ、なにやら龍神のような神様に近い存在なのではないか・・・

もぐらたたきとは不敬な発言をしてしまったようだ。

新世界に1歩を踏み出したモグラに尊敬の念を持ちつつ、そっと音を立てないように土竜塚を後にしました。

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