認定調査の一幕。
「ご主人の耳の聞こえはどうですか?」
「それですよ! 最近本当に聞こえなくなりました」
「あらら、それは大変ですね」
「テレビの音量が最近36になったんですよ。うるさくてもう!」
「それは困りましたね」
「せめて28くらいにしてっていつも言ってるんですけどね、ちょっと気づくと36になってるんですよー」
「あー36はつらいですねー」
音量36って言われてもなぁ・・・と苦笑しながら、調査票にチェックを入れます。
耳は大切にしなきゃ、そう思う機会が最近増えてきました。
難聴の種類
「難聴」は障害を受けている場所によって2種類に分かれます。
外耳や中耳などの音を伝える場所の障害による「伝音(でんおん)難聴」、内耳や脳などの障害により音を感じ取れなくなる「感音(かんおん)難聴」の2種類があります。
耳鼻科で診てもらったら大量の耳垢が詰まっていてすっかり聞こえるようになった、と言われるのは「伝音難聴」。
年齢が原因となる「加齢性難聴」や「突発性難聴」「メニエール病」などは「感音難聴」に分類されます。
難聴というとすべての生活音が聞こえづらくなるイメージがあります。
でも難聴の初期の頃は聞こえる音量自体はあまり変わらず、聞こえない「周波数」だけが聞き取れなくなります。
日常の会話で言えば、「母音」は変わらず聞き取れるのですが「子音」は聞き取れなくなります。
すると日常生活でいろいろと困りごとが増えていくんです。
聞き間違いから夫婦げんかが起っちゃうんですね。
「お父さん、今日の会合は加藤さんのお宅で7時からだって息子さんから電話が来たよ。・・・だから加藤さんって言ってるじゃない! 佐藤さんじゃなくて加藤さん! かとうさん!! 佐藤さんちに息子なんていないでしょ! そうそう加藤さんちね。・・・1時じゃなくて7時! いちじじゃないしちじ! しちじ!! しー! しー! しーちーじー!!」
認知症への道
耳が遠くなると、夫婦げんかよりももっと重大な影響があると言われています。
「認知症」への近道になってしまうんです。
認知症の危険因子はいくつか挙げられているのですが、その中でも「難聴」は最も大きな危険因子だと言われています。
一見なんの関係もなさそうですが、聴力と認知機能は密接に関係しています。
耳が遠くなることで脳で行う情報処理量が少なくなり、脳が萎縮したり働きが弱くなったりすることがわかってきたのです。
それ以外にも、耳が遠いことで他人が会話を避け出すことや、引きこもりがちになることも要因と考えられています。
最新の研究では中年期(45〜65歳)に難聴だった人は高齢期に認知症になるリスクが通常の2倍になると発表されました。
そうなると耳を大切にすることも大事ですが、難聴を放置しないことも大事だということになります。
そこで登場するのが「補聴器」です。
ところがこれ、高齢者にはかなりの「嫌われもの」なんです。
補聴器
高齢者の言い分はほぼ2つに集約されます。
・ピーピーうるさい
・カッコ悪い
うるさいという方の話をよく聞いてみると、以前に買った安価な「集音器」であることが多いです。
「補聴器」と「集音器」は似て非なるもので、補聴器は個別に周波数調整をしたものですが、集音器は一律に周囲の音を拾うもの。
集音器は「小型スピーカー」なのでピーピーうるさいことが多く、それで嫌気がさした経験を持っている人が多いんですね。
またカッコ悪いというのも昔のイメージ。今の補聴器は小型でおしゃれなものになっています。
難点と言えばかなり高額な事。10~50万円程と機能によって幅がありますがやはり高額です。
少し前までは「ぜいたく品」扱いでしたが、認知症予防効果を考えれば「必需品」と考えるべきでしょう。
私がかかわるところでは難聴の本人と言うよりは、当人の配偶者やお子さんが購入を促しているパターンが多い印象です。
照れくさそうに補聴器デビューをする姿は、認知症とは程遠い、とても若々しい印象を受けます。
未来への投資
「耳の聞こえはどうですか?」
「耳はいいんですよ。地獄耳とみんなから言われていますよ」
「それはそれは」
「あらお父さん、最近聞き返すことが多いじゃない?」
「え? なんだってぇ?」
「ほら、都合の悪いことは聞こえなくなるんだから」
これも高齢者の会話あるあるですね。調査員が反応に困る一幕。
目が悪くなったら「眼鏡」新調する。耳が悪くなったら「補聴器」を新調する。
10年後の自分のための、ちょっと高価な投資が「補聴器」なのです。
こだわりなく、先入観なく、素直に選択できるようになりたいものです。


