足音

朝晩肌寒くなり、また今年も「冬の足音」が聞こえてきました。

事務所内も日に日に寒くなり、パソコン中の足元が冷たく感じます。

ある日ルームシューズなるものをショップで発見、試しに買ってみることにしました。

フリース素材で出来ており、足にフィットして確かに暖かい。

踵を踏んでスリッパ風に履こうと考えLLサイズを購入しましたが、思ったよりタイトな作りでジャストフィットな感じ。

難点と言えばそのジャストフィットがアダとなり、手放しで履くのが困難な事でしょうか。

朝の出社時など、両手がふさがっている時に履くにはやや面倒です。

左足を左シューズに半分入れながら右足で左シューズの踵を踏んづけて左足を左シューズにつま先まで履き、右足を右シューズに半分入れながら左足で右シューズの踵を踏んづけて右足を右シューズのつま先まで履く。という作業が毎朝必要になります。

まあ慣れれば何とかなると思っておりおおむね満足はしています。が、このルームシューズには大きな欠点があるのです。

歩くたびに音が鳴るのです。

ギュッバリッ

ルームシューズの裏側を見てみると、光沢のある滑り止めが施されています。

ショップで触ってみた時にはさほどの粘着感もなく、お飾り程度の物かと思っていました。

ところが実際に使ってみるとこれまたとんでもないシロモノで、事務所のフローリングにしっかりグリップしちゃうんです。

少しすり足になろうもんなら、それ即ち転倒は必然。

引っかからないようにきちんと足を上げ、腕を振り、行進のように歩く姿は絶対に人に見られたくありません。

おまけに音がスゴイ!

足を着地させるたびに「ギュッ」という雪を踏んだような音。

そして足を上げるたびに「バリバリッ」という粘着テープを剝がしたような爆音が鳴り響きます。

私は何か考え事をするときには室内をウロウロと歩くことが多いのですが、気が散ってしょうがない。

ギュッバリッギュッバリッギュッバリッ・・・うーん・・・ギュッバリッギュッバリッギュッバリッ・・・なるほど・・・みたいな。

生きてる実感

ところが慣れというものは恐ろしいもので、3日もしないうちに気にならなくなりました。

気にならないどころか、ギュッバリッと音がすることが人間の標準装備のような気がしてくるから不思議です。

たまにシューズを履かないで歩いていると、あまりに静かすぎてむしろ寂しいと言うか物足りないと言うか。

歩いている感じがしないと言うか、生きている実感がないと言うか。

以前テレビの音量を「消音」にして『サザエさん』を観ていた時、なにか得体のしれない違和感を感じながらしばらく観ていたことがあります。

テレビの音を付けてみて違和感の正体がわかりました。タラちゃんの足音がないんです。

タラちゃんが歩く時に必ず聞こえる効果音が聞こえてこないため、違和感があったようなんです。

私の脳にはセリフが聞こえないことは理解できても、タラちゃんの歩く時の音が聞こえないのは理解できなかったみたい。

私の足音もあるのかないのか、どっちがデフォルトなのか、私の脳はわからなくなってる感じです。

ギュッバリッ、あー生きてる!

ピッピッピッ

昨日の事、仕事中に住宅街を歩いている時、私の前方から近づいてくる親子の姿がありました。

若い夫婦とまだ歩き初めと思しき幼児が、一列に手をつないで歩いていました。

前方から近づくにつれ、「ピッ、ピッ、ピッ」と音が聞こえてきました。

子供のぎこちない歩行の足元には、どうやら笛の鳴る靴を履いているようなんです。

なつかしー、まだあるんだね。

その子供は歩くことを楽しみながら、明らかに音を意識した歩き方をしていました。

それを見て私が感じたことは、歩く音を感じることは自分への自信につながるということ。

自分の存在をアピールし、自己肯定感が上がるんだろうということ。

子供のキラキラした笑顔と両親の幸せそうな笑顔、すれ違いざまに確信しました。

ピッピッピュウーーイピピピーーーピッピッピッ

足音を感じる

いっそのこといろんな生き物に足音を付けてしまうのはどうだろう。

カラスに足音を付けてしまう。都市部では住みづらくなるなー

カピバラに足音を付けてしまう。歩くのがイヤになりお風呂から出なくなるなー

ゴキブリに足音を付けてしまう。いや怖い怖い。

上司に足音を付けてしまう。来るよ来るよ、早くおやつ隠して!

やっぱどれもいらんか・・・

そういえばこのコラムの冒頭の一文。「冬の足音」ってやつ。

本当に聞こえたらどうなるんだろう? 9月頃から少しずつ足音が近づいてきたりして。

今朝の通勤途中、遠くに見えた富士山は冬化粧を始めたようです。

その時の私の耳には、確かに冬の足音が聞こえていました。

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