くず

「おまえさん、どこが悪いんだ?」

「先生、どうも頭が痛くてしょうがねぇんですがね」

「んー頭痛だなそりゃ、葛根湯やるから飲んでごらんよ」「お前さんは?」

「腹がしくしく痛ぇんです」

「腹痛ってんだそりゃ、葛根湯やるからお飲みよ」「そっちのほうの方は?」

「どうも足が痛くってしょうがねぇんですがね」

「足痛ってんだよそりゃ。葛根湯やるから一生懸命お飲み」「その後ろの人は?」

「先生、あっしは目が悪くてね」

「むむ、そりゃいけないな。目はまなこと言ってな。一番肝心なところだろ? 葛根湯やるからせいぜいお飲み」「その隣の方は?」

「いや、兄貴が目が悪いんで一緒について来たんで」

「そりゃご苦労だな。どうだ退屈だろう? 葛根湯やるが飲むか?」

葛根湯医者

柳家小さんの「薮医者」という落語に登場する「葛根湯医者」の一節です。

江戸時代の匂いが漂っていて、師匠の話術も手伝ってじわじわと笑いが起こります。

ここに出てくる「葛根湯(かっこんとう)」は我々一般人には一番なじみのある「漢方薬」の一種です。

漢方薬と言われれば葛根湯しか知らないという方も多いと思います。

風邪のひき初めには効果が高く、ドラッグストアでは粉薬や飲み薬などが棚を埋め尽くすほど。

さてこの葛根湯、中身は読んで字のごとく「葛(くず)の根っこ」を煎じたものです。

ところが「葛根(カッコン)」だけではなく、いろんな生薬が配合されたお薬であることはあまり知られていません。

葛根湯には、葛根(カッコン)、大棗(タイソウ)、麻黄(マオウ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、生姜(ショウキョウ)の7つの生薬が含まれています。

これらの生薬がそれぞれ複合的に効果を発揮しているんですね。

さらにその効能・効果を見てみると、驚くべき内容なのです!

万能薬

製薬会社により葛根湯の効果・効能に違いがありますが、主なものを拾ってみると以下の通りになります。

頭痛、発熱、悪寒、肩こり、感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎、神経痛、じんましん、下痢、蓄膿症、失神・・・

そう、ほぼ万病に効くと言っても過言ではないんです!

正確には「身体を温めて治す」ための漢方薬なのですが、各種の生薬によっていろんな症状に効くようになっているんですね。

葛根湯医者もまんざら嘘ではないのです!

かくいう私もちょっとした体の不調、特に頭痛にはこの「葛根湯」で治ることが多いです。

強力な消炎鎮痛剤は控えたい、そう思う方にはぜひおススメです。

かかりつけ医がいれば医療用漢方製剤を、いなければドラッグストアで購入できます。

首から頭がなんか重いなーという時に、食前30分前に口に含んだ水に粉を流し込んで一緒に飲み込みます。

徐々に体がポカポカしてきて、気づいたら治ってる・・・てな感じです。

葛とくず

葛根湯に使われている「葛(くず)」ですが、ほかにも有名な使われ方があります。

葛の根っこから取れる「くず粉」です。葛湯や葛餅、葛切りなどに使われていますよね。

私も含めた関東の人には「船橋屋」「住吉」などのくず餅がお馴染みなのですが、実はこれらには「葛」は使われていません。

関東のくず餅には「小麦粉」が使われているんですね。

そのために商品名が「くず餅」だったり「久寿餅」だったりと「葛」の字が入っていないんです。

一方、関西の葛餅は奈良県産の本葛が使われており、文字通りの「葛餅」です。

両者の違いは一目瞭然、「くず餅」は小麦粉なので乳白色、「葛餅」は透明で透き通っています。

食感も違いがあり、「くず餅」は『ぷりん』、「葛餅」は『つるん』という感じ。

ということは葛餅を食べることは、薬膳料理を食べているのと同じことなんですね。

ちょっと風邪をひいたかな・・・というときに葛湯を飲むのはとても理にかなったことなんですね。

根気をつける

葛にはもうひとつの顔があります。

「秋の七草」のひとつなのです。

秋の七草? あまりなじみがないですね。

萩と桔梗と葛と・・・あとはなんだろう? 聞いたこともない・・・

秋の七草 : 萩(はぎ)、尾花(おばな)、葛(くず)、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、桔梗(ききょう)

なるほどなるほど、聞いたことがあるような、ないような・・・

「ハギ、キキョウ、クズ、フジバカマ、オミナエシ、オバナ、ナデシコ 秋の七草」

秋の夜長に散歩しながらこれを口ずさめば、私も風流人の仲間入り・・・かな。

ちなみに葛の花言葉には「根気」というものがあるそうです。

「根気がつきますように!」と祈りながら葛根湯を飲む!

「にが!」

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